Business Boot Camp 2016 session 05レポート

2016年12月03日(土)

終盤に差し掛かった日野市主催「変革力」強化プログラム「ビジネス・ブートキャンプ」。全6回セッションの最終プロセスは「デザイン・プラクティス」というフォーマットで、問題の解決アイディアを発想し、計画化する演習を、2回に分けて行ないます。

私たちの社会は、人々が話し合うことで様々な問題を解決します。肯定的に交わされる会話が社会の発展のための基本要件。問題の解決は、その問題に関わる人々の会話から始まります。問題を発見し、本質を探り、解決するためのアイディアを出し合う会話。「変革」や「問題解決」の方法は常に、肯定的に交わされる弛まぬ会話が前提なのです。

「デザイン・プラクティス」は、多様な人々が集まり、問題解決に向かって実践的に話し合うプロセスを重ねる演習です。話し合いといえば、日頃から当たり前に行なわれているものですが、解決に向かって効果的、発展的に話し合うためには、そのための方法が必要です。問題が困難であればあるほど、関わる全ての人々の全てのアイディアを活かす、相互理解や相互尊重を基層に置いた話し合いが必要。その方法、心構えやルールを全員が知ることで、そこで案出されるアイディアの可能性が高まります。

それと同時に必要なのが、発想のための方法、頭の使い方です。発想という創造的な思考には、「考える」と「感じる」、ふたつの経路を往還しながら頭を使うことが大切。論理と感覚、直観、左脳と右脳、ロジックと閃き、いろいろな言い方がありますが、その両方を使うのです。ロジックだけで考えない。閃きだけに頼らない。その両方を行ったり来たりしながら進んで行くと、あるポイントで大きな確信に至ることがあります。そんな思考の重なりから確信を得たアイディアは、とても強いアイディアになるでしょう。

また、脳には、自分で意識できる働きと、無意識の働きがあり、その無意識の働きを使うことも有効な方法になります。考えなくてもわかること、身体で覚えていること、眠っている間に整理される記憶。普段は近道の好きな怠け者で、なかなか思い込みから
逃れられない脳ですが、意識に顕れないその裏で、休みなく高度な情報処理を重ねているのです。その無意識の部分と意識している思考が繋がったとき、びっくりするような予期せぬアイディアが顕れるのです。

これらの方法は、理解するだけでは役立ちません。特に、普段から考えてばっかりで感じる経路をあまり働かせていない現代人。意識的に感じてみたり、感じたことを思考に、考えたことを感覚に、なかば強制的に結びつけてそれを体感する。そんなトレーニングが必要だったりします。プログラムの最初、セッション1で行なった「ビジョン・クリッピング」というワークがそれ。今回のセッションでも、話し合いのプロセスを重ねる演習と一緒に、思考と感覚、意識と無意識を往還する「ビジョン・クリッピング」を行ないます。

まずは、相互尊重を意識しながら、全員の協議によるグルーピング。現時点での課題の状況と目指している到達ポイントを指標にしたポジショニング・マップを基に、全員の課題達成を目指しうるグループ分けを全員で考えます。到達ポイントまでの距離、課題の難易度、一人ひとりの状況を踏まえながら、類似の要素を持つ人を同じグループにしたり、難しい課題ばかりが集まらないようにしたり、自分のことも、他の人のことも、多面的に考えて、あれこれ意見を出し合いながら、1時間ほどで全員合意のグルーピングが完了。これまでのセッションでお互いの状況を共有し、個々の性質や機能性も知り合って来たためか、想定していたよりもスムーズにグループが決まりました。
グループが決まったところで、ミーティングに入る前に「ビジョン・クリッピング」を挟みます。3作品の絵画を順番に見て行って、感じたことや想像したこと、思い浮かんだ言葉を漏れなく拾って繋げます。今回の絵は、クロード・モネの「サッセンハイムのチューリップ畑」、アンリ・マティスの「赤いアトリエ」、そしてパブロ・ピカソの「草上の昼食」。今回のプロセスに合わせて、少し物語の浮かびやすい絵画で柔らかく発想します。

強制的に言葉を捻出したり、自由に言葉遊びをしたり、絵の中に物語を感じたり、想像したり、ありったけ無作為に言葉を拾い集めた後、今度は、作品の順番に3つの言葉群を繋げて、論理的に1本の文章を組みあげます。無関係な3つの作品から発想された言葉群をひとつにまとめて、きちんと伝わる文章にする。拾い集めた言葉の中には、無意識のうちに、直面している問題についての潜在意識が顕れることもあります。いろいろな要素の潜んだ物語を相互に共有することも、発想の裏側を客観的に見る経験になります。

「ビジョン・クリッピング」で頭をやわらかくした後は、いよいよ、グループに分かれてミーティング。自分の問題を企画書にして持ち寄り、全員達成の目標に向かって、話し合う順番も時間配分も、みんなで工夫しながら進みます。効果的なミーティングのための最大の要件は、参加するメンバーの当事者意識と役割認識。それぞれが自分の問題のオーナーであり、他のメンバーの問題を取り上げるときは、ファシリテーターになったり、ジェネレーターになったり、はたまた、アイディアをまとめて記録する書記になったり、タイムキーパーも重要。局面ごとに臨機応変、全員の力を合わせて進まなければなりません。

問題はいつも、ひとつだけで起きるわけではありません。誰も、どんな集団も、複数の問題を抱えていて、いつも沢山の問題を抱えていて、順番に考えたり、いくつかを一緒に考えたり、問題を組み合わせたりしながら、総じて、どの問題もある程度の期間の中で解決しなければなりません。今回のデザイン・プラクティスで想定しているのはそんなケース。グループの中で問題を共有し、整理し、できるだけ効率よく全ての問題を考えて行きます。個々に、あるいは全体で、このセッションに至るまでの間、折々に共有して来た情報も合わせ、持ち寄られた企画書に沿ってミーティングを進めます。

ここまでのセッションで、個々の問題を掘り下げて、それがどういうことなのかを定義し、そこから浮かび上がる課題を設定して来ました。今度は、それを基に解決方法を考えて行くプロセスです。問題定義や課題設定をするときの論理的な思考に加えて、このプロセスでは創造的な思考を使います。「問題が起きたときと同じ思考では、その問題を解決することは出来ない」という、アインシュタインの言葉にある通り、現前の問題について現状のまま取組んでいるとなかなか打開は難しい。問題を大きくしてみたり、小さくしてみたり、関係性を逆にしてみたり、他人になってみたり、あたりにぶちまけてみたり、いろいろな方法で、違う角度から、多様な角度から発想することにトライします。

相互尊重を基にした対話や、効果的に話合いを進めるためのシフトやローテーションも重要です。そういった技術的な面も確認しながら、個々のメンバーの問題ひとつひとつに対して、実際に解決できるアイディアを捻出する。時間は限られています。なかなか、のんびりとはしていられません。どのグループも、全員が活発に意見を出し合い、テキパキと整理し、休みなく、次へ次へと問題に取組むこと2時間あまり。けして、充分な結果まで到達できる時間ではありませんが、ともかくも、ミーティングを完遂したのでした。

次回はいよいよ最終回。今回のセッションで捻出したアイディアを各自の宿題として持ち帰り、プレゼンテーションのための企画書にして総掛かりのジャーナリングに挑みます。