Business Boot Camp 2016 session 01

2016年10月8日(土)

日野市主催の「変革力」強化プログラム「ビジネス・ブートキャンプ」が始まりました。「ビジネス」という言葉が冠にありますが、ビジネスに限らず、いろいろな「変えたい!」を変えて行く「変革力」を身につけるプログラムです。各界で新機軸を打ち出しているリーダーを講師に招いたレクチャー&ディスカッションと、実践的なソリューション・デザインを演習するプロブレム・ベースド・ラーニングを組み合わせて、ノウハウではなく、考える方法を身につけるためのセッションを重ねます。

変化し続ける世界と対峙しながら社会を発展させて行くために、いちばん最初に必要なのは、未来を見通し、到来する課題を洞察し、解決に向かって行動する人々がそこにいることです。社会は、人々のアイディアによって創られ、人々の働きによって動きます。それぞれにリーダーシップを具えた多様な人々が、社会を共有し、当事者として課題に向き合い、主体的に行動する社会。そんな社会で活躍する人材を輩出しようという目論見なのです。

求められる能力は「知る力」「見抜く力」そして「考え抜く力」。必要な感覚は「相互尊重」「多様性と寛容性」「集団的知性」。このプログラムは、それらを身につけるために「感性と知性」「哲学と実践」「過去と現在」「理想と現実」「ビジョンとアクション」など、さまざまな思考領域を往還しながら実践的な演習を重ねるコンテンツで構成され、すべて対話によって進み、相互尊重をルールとするチームワークによってゴールを目指します。

10月8日、最初のセッションは、感性の存在を自分の中に体感する「ビジョン・クリッピング」。感覚と思考を結びつけて、創造的に柔軟に発想するための方法、感じ方や考え方を体得します。感覚で受け取って思考で返したり、言葉で思考しているものを対話を通してイメージに変えたり、いろいろなベクトルで感覚と思考との間を行ったり来たりします。

「感じる」と「考える」。人の精神活動にはふたつの経路が介在します。そこにあるものを認識するとき、どうしようか考えるとき、何かを決めるとき、そのふたつの経路が働きます。理論と感覚、直感と論理、頭と体、右脳と左脳、いろいろな言い方があります。一般的に、感覚的な人は右脳タイプ、理論的な人は左脳タイプと言われますが、じつは、そんなにくっきりと分かれるものでもありません。ざっくりと「理論」と「感覚」で得手不得手はあると思いますが、もともと連続している領域。大切なのは、両方をバランス良く使うことなのです。

「ビジョン・クリッピング」は4つのプロセスで感覚と思考を往還します。まず、3作品の絵画を順番に見て行って、感じたことや想像したこと、思い浮かんだ言葉をどんどんメモします。今回の絵は、アンリ・エドモン=クロスの「農園:夕暮れ」、ワシリー・カンディンスキーの「コンポジションⅧ」、そしてパブロ・ピカソの「メイズ・オブ・ホナー」。印象派からフォーヴィズム、キュビズムにかけての、いずれも近い時代に生きて、影響を受け合いつつ、ぜんぜん違う独自の手法を採った3人の画家の作品。

それぞれの作品について言葉が出揃ったら、次に、それらの言葉を繋げて1本の物語を作ります。みなさん、やったことのない作業に戸惑いながらも、面白がって取組むところはさすが。この言葉や物語の中には、思考の奥底にある、自分でも気づかなかった意識や、窮した中で突然閃く新しい言葉の連結が顕れます。ニューロンネットワークで発生するこれらの発火現象を、少しずつでも増やして行くのが大切です。

3つ目のプロセスは、ひとつのテーマについて対話をし、言葉を共有可能なイメージに変換して行く作業。最後のプロセスで絵を描くための発想の時間です。今回のテーマは「こうありたいと思う、未来の自分」。なんとも掴みにくい漠然としたテーマに、みなさん一様に苦笑い。それぞれペアになって、テーマに沿って考えていることを話し、相手は、話を聞いて感じたことを色や形、連想した物など、すべてイメージで返して行きます。思考の中から絵の着想を得るプロセスを、他者との対話によって体験するのです。

そして、対話の中から得た着想を、いよいよ1枚の絵にします。今回のツールはソフトパステル。24色のパステルを工夫して、真っ白なキャンバスに思い思いの絵を描きます。普段から絵を描き慣れていないと、なかなか描き始めることもできないものですが、対話の中で得た着想に従って素直に描いてみると、何だかスイスイと描くことができるのです。

ほとんどのみなさんが、絵なんて描くのは子どものころ以来という中、黙々と描くこと40分。なかなかどうして、みなさんしっかりと像を結んだ素敵な絵が出来上がりました。

最後に、描いた絵のプレゼンテーション。絵の背景や着想を得たプロセスを一人ひとり説明し、みんなでフィードバックします。対話の中で出たのと同じ言葉が、対話の内容を知らないはずのフィードバックに顕れたり、絵を見ただけで対話の相手のアイディアに共感したり、複数の人に受け継がれたアイディアの遺伝子が、複数の人々に共有される、目に見えない還流がいくつも巻き起こりました。

現代の日本人は考え過ぎのアタマでっかち。感覚が鈍麻して直感が働かず、創造性が低いと言われています。確かに、あちこちで直観力や想像力の欠如を感じることが多いのですが、こういうプロセスを通してみると、どんな状態にあっても、感覚はすぐに活発に動き始め、あっというまに息を吹き返すということがわかります。人の思考構造は、固まったコンクリートではなくて、常に電気が走り、即座に自由につながり合う生きた構造です。解りやすいデータやノウハウを習得するだけではなく、何につながるか解らない、説明不能な刺激も、発想力を高めるためには必要なようです。

それぞれに意味深い、個性的な絵が完成しました。これらの絵は、プログラムの終了まで、毎回セッションの会場に展示されます。セッションの間に時折この絵を眺めることで、ロジカルに傾きがちな思考を感性の領域に留めるのです。絵を描いたときの発想の流れは、記憶が薄れて、言葉で説明できなくなったとしても、必ず、感覚の中に残っているものです。その感触を持ったまま、ロジカルな思考に没頭するセッションが、このあと12月まで続きます。