日野市主催の「変革力」強化プログラム「ビジネス・ブートキャンプ」のセッション2。ここからは3回に渡ってレクチャー&ディスカッションが続きます。それぞれの分野で新しい取組みを実践しているリーダーのレクチャーから、ベンチマークとなる事例や考え方を受け取り、その中から、自分たちの問題に適合できる原理を導き出すことが狙いです。
セッション2のレクチャーは、GE(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)のラジェーンドラ・マヨランさん。
世界最大の機械メーカー・GEが、変革的な施策として昨年10月に発足させた新組織「GE Digital」のソリューション・アーキテクト。様々な問題に直面する企業や社会のソリューションを設計する仕事です。GEのホームページを見ると、企業情報の一番最初に「インダストリアル・インターネット」というコンセプトについてのステイトメントがあり、その中で、IoTについて語るマヨランさんの記事(2016年7月25日付・GE Reports)がピックアップされています。いわば、最先端のそのまた旗頭になって、新しいプロジェクトを次々と手がけている人なのです。
マヨランさんはまた、このプログラムの発起人でもあります。変革の考え方をいろいろな人にシェアしよう、という発想でした。義手や義足を使う人々の助けになるロボットを作ろうと、10代のころ日本へ。高専に入学してロボコンに取組みます。長澤まさみ主演の映画「ロボコン」のモデルになった2002年大会に出場していた、というエピソードの持ち主。進学した東京大学でMRIなどの研究を重ねた後、エンジニアとしてGEの医療診断機器の開発に従事。先端的な分野で活躍しているだけではなく、ひとのために働くこと、社会のために働くことを、その姿勢の根本に持ち続けていらっしゃいます。
マヨランさんのレクチャーのテーマは「Seeds × Needs = Innovation」。コミュニケーションロボット・Pepperを使った医療現場の支援や、新しい診断機器の開発、GEのソフトウェア・プラットフォーム「Predix」をベースにした事業開発など、新しい分野で立ち上げる大小様々なプロジェクトから、いくつかの事例をピックアップして、発想の転換や組み替え、組み合せ、視点を置き換える方法、プロジェクトを進めるための要件など、新しいものを作るときの本質的な考え方を示してくれるレクチャーでした。
GEという巨大企業の中で独自のアイディアからプロジェクトを立ち上げるアプローチは、リーン・スタートアップとコ=クリエイション。メーカー視点で組まれた体制と予算都合で開発を進めるのではなく、必要最低限のスモール・スタートからユーザー視点で徐々に進めて行く開発方法です。ものごとは著しく細分化していて、メーカーが単独で考えた均質なものを大量に展開する方法は、あまりにも闇雲。メーカーの思惑にユーザーが巻き込まれるのではなく、ユーザーの状態にメーカーの知識や技術を掛け合わせて、本質的に必要なものを創出して行く方法が求められるようになっているのです。
途中にディスカッションを組み込みながら、マヨランさんのレクチャーは、徐々に、いろいろな要素に分解されて各自の問題に吸収されます。人(傍)のために働くビジョンを共有し、波及させて行く。そのための信念や覚悟と、失敗の大切さ。すぐに始めることと、やり抜くこと、などなど、たくさんの要素が、次へ進むテーマとなって顕れてきました。それらの要素を踏まえながら、後半は、プロブレム・ベースド・ラーニングという手法でソリューション・デザインのプロセスを辿ります。この日のセッションで行われたのは、直面している問題の本質を掘り下げる「ビジョン・マッピング」。参加者全員がペアになって、対話の中で問題を分析し、表現可能なところまで明確化する演習を重ねます。
日々、現われる問題のなかには、経験したことのない、解決方法も行く先も見えない複雑な問題も多い。そんなときは、解決に取りかかる前に、問題を正しく捉えて、何をして、どういう状態になれば解決なのか、ということから考えなければなりません。そこで必要になるのが、問題の本質を見極めて課題を設定する知力や、仕組みを把握して明示するデザイン力、技術や方法を結びつける応用力、そして何といっても、根源的な理解まで到達するための精神力。それはそれは、とても難儀な、根気のいる作業なのです。
解決までの道のりは4つのプロセスに分かれます。「問題定義」「課題設定」「解の発想」そして「解の選択」。「ビジョン・マッピング」は、その最初のふたつ「問題定義」と「課題設定」のプロセスで使うアプローチです。問題を、現状と理想の間にあるギャップと捉え、その関係を明確化して全体像を把握します。現状とは、今そこにある事実。それに対する理想、目指す姿を描くと、その間のギャップに問題の全体像が現われるのです。その全体像を分解して大きな要因を探ると、その中に原因や根拠、理由、作用が顕れて、問題の本質が見えて来ます。問題の本質を探し出しておかないと、行き当たりばったりの対症療法に終始して問題は解決しません。全体像とその本質。これを一番最初に確認しておきます。
次に、課題設定をします。定義された問題を解決するためにクリアしなければならない課題を探し出すプロセスです。問題定義で示された要因を一つひとつ検証して、それに対する課題を設定して行くのです。解決というのは、その一つひとつの課題をクリアして行く作業。ここで適切な課題設定をしておくと、解決方法を見つけるのも、解決の進捗を管理するのも、もちろん、解決に到達するのも、より適切な形で進められるはずです。このセッションでは、その入口を間違いなくスムーズに進むための考え方を体系化し、それを実際に各自が直面する問題に適用するための演習を行ったのでした。
プログラムの参加者のみなさんは、それぞれ個別に、さまざまな状況を持っています。けして同じような問題を抱えた人たちのグループではない。大きな問題に直面している人もいれば、何かを変えたいと思っている人もいれば、活動する分野も、興味や関心も多岐に渡ります。そんな人々がひとつのプログラムに取組み、全員が、一人ひとり個別の、けれど同じ達成度に至る、ばらばらなゴールを一緒に目指すのが、このブートキャンプ。感覚と思考を行ったり来たりしながら、この後は、更に視野を拡げ、認識を深め、解決スキルを高めるためのトレーニングが続きます。